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2月 クイナの仲間を探してみよう 水辺の忍者の観察は高難度
水辺の鳥だけど見つからない

 河川,池沼,干潟,海など,開けた環境で見通しのよい水辺ではさまざまな鳥が見られます。サギ類やカモ類,カモメ類やシギ・チドリ類などはバードウォッチング初心者にも探しやすいので,鳥に親しむにはもってこいの環境です。ところが,そんな水辺の鳥の中で,なかなか人前に姿を現さない観察難易度が高いグループがいます。今回のテーマはその「いるはずなのに姿は見えない鳥」クイナ の仲間を紹介します。

水辺は開けているので鳥が見やすく,その種類や数も多い
カモなどでにぎわう水辺に姿を見せたヒクイナだが,すぐに茂みに隠れてしまった
クイナ=水辺の小さなツル

 「クイナ」という鳥をひと言で表すなら,「体形が縦に平たく,足が長い小~中形の湿地の鳥」です。分類でいうと「ツル目クイナ科」というグループの鳥になるので,あのツルと近縁です。ちなみにクイナ科に属する種は約150種いるのに対し,目の名前にもなっているツル科はたった15種です。「クイナ目」でもよかったように思いますが,嘴も足も頸も長く,大形のツル類は目立ち,対してクイナ類はあまり目につかなかったことを反映しているのかもしれません。なお,日本で記録のあるクイナ類は絶滅した1種を含む14種で,ツル科の7種の倍はいますが,離島にすむ種や記録が少ない種も多く,全種見るのは至難の業です。
 クイナ類がなかなか観察できない理由は,何といってもその警戒心の強さです。水辺の鳥ながら,開けた水面に出てくることはほとんどなく,縦に平たい体形を生かして,水際の茂みやヨシ原の中で大半を過ごしています。さらに敵から逃げたり,移動するときの手段は飛ぶのではなく主に歩きなので,いったん茂みに入られるともう姿は見えません。そして人の姿を認めるやいなや,一目散に走って隠れてしまいます。さらに夜行性や薄明薄暮の時間帯に行動する種が多いことも,クイナ類の観察の難しさに拍車をかけています。

ナベヅル。長い頸・足・嘴をもつツル類の代表格。クイナ類を含むツル目は歴史が古く,その起源は恐竜の絶滅直後までさかのぼる
南西諸島で主に見られるシロハラクイナだが本州でも記録はある(画像:photoAC)
オオクイナは先島諸島では留鳥だが,それ以外の場所で見ることは稀(画像:photoAC)
日本では硫黄島で記録があったが,1925年以降の記録がなく絶滅種となったマミジロクイナ。東南アジアなどでは別亜種が今も生息している(画像:photoAC)
クイナ類の紹介 ①比較的見やすい「バンオオバン

 なかなか姿を見るのが難しいクイナ類の中で,最も見やすいのがこのバンの仲間です。特にオオバンはこれまで紹介してきたクイナ類の性質と違い,開けた水面に出てくるし,体はカモ並みに大きく,さらに街なかの河川でも簡単に見られます。全身真っ黒で,額の白い板状のもの(額板)が目につきます。この額板,よく見ると個体によってサイズが異なることに気づきます。これは「雄で成鳥だとより白くて大きい」といわれているため,年齢や性別の識別にも使えます。一方,バンはオオバンに比べればクイナらしい性質で,開けた水面で泳いでいることもありますが,人に見つかるとすぐに草むらに逃げ込みます。オオバンに似た黒い姿をしていますが,嘴は鮮やかな赤色と黄色で,白い下尾筒(尾羽の下側にある羽)を見せつけながら泳ぐこともあり, こちらも身近なクイナ類といえます。

水面を泳ぐオオバン。額の白い額板が目立っているので成鳥の雄
額板が小さな個体。若い,あるいは雌と思われる
陸に上がって植物などを食べているオオバンの群れ。群れるクイナ類は珍しい
特徴的な弁足。趾(あしゆび)から木の葉状に水かきが出ており,歩行と遊泳の両方がうまくできるような構造となっている
バン はオオバンほどではないが泳ぎは得意。白い下尾筒を立てている
バンは巣立った若鳥が,後に生まれた弟妹の世話をする「ヘルパー」という珍しい生態がある
クイナ類の紹介 ②最近見やすい?「クイナヒクイナ

 オオバンやバンに比べると見る機会は少なく,その見た目や生態がクイナ類らしいのがクイナヒクイナです。両種とも東北以北では夏鳥で,それより南だとクイナが冬鳥,ヒクイナは留鳥なのですが,ヒクイナは古い図鑑を見ると「越冬例もあるが全国的に夏鳥」とされています。近年,バードウォッチャーの間では「クイナやヒクイナが見やすくなった」という話があり,実際,関東の街なかのちょっとした調整池などでも目撃例があります。ただ,もともと人目に付きにくい鳥で正確な調査が難しかったこともあり,数や分布が把握されておらず,さらに温暖化や環境改変などの影響で生息状況が変わっているのかもしれません。ちなみに「クイナ」という言葉自体は「水鶏」という表記で日本書紀にも出てくるほど,昔から知られています。「鳴き声が戸を叩くような音に聞こえる鳥」ということなのですが,これは「キュイキュイ」と鳴くクイナではなく,「コンコンコン」と鳴くヒクイナだったとされており,かつてはこの2種の名前が混同されていたようです。

クイナ。体の複雑な模様が美しい。水辺を歩くのに適した細長い趾(あしゆび)をもつ
クイナは基本的には臆病なので,人の姿を見つけると一目散に茂みの中に逃げこむ
ヒクイナは「緋水鶏」と書くように体と足が赤い。全長は20cmほどと, 30㎝ほどのクイナに比べふた回り小さい
水辺で小形の貝やカタツムリなどを食べているヒクイナ。近年は見る機会が増えた
クイナ類の紹介 ③日本唯一の飛べない鳥「ヤンバルクイナ

 クイナ類は離島に暮らす種が多いのが特徴です。日本の離島のクイナといえば,その代表はヤンバルクイナでしょう。1981年に新種として記載され,鮮やかな赤色の嘴と足が目立ちますが,何よりの特徴は日本の鳥で唯一「飛べない鳥」であることです。クイナ類は無飛翔性(飛べないこと)になりやすいといわれますが,特に離島の種でその傾向は顕著に見られます。ヤンバルクイナの場合,フィリピンにいた最も近縁な種(ムナオビクイナ)が百数十万年前に沖縄島に飛来,外敵がいない島で飛ぶことをやめ,豊かな島の環境に適応して少し大きくなったのがヤンバルクイナと考えられています。ただ,こうした鳥は環境の変化に弱く,ヤンバルクイナもその後,森林開発や外来種(フイリマングースやノネコ)の侵入により2000年代初頭には個体数がかつての4割,1,000羽を下回るなど大きく数を減らし,一時は絶滅寸前のところまで追い込まれました。現在は外来種の対策などが奏功し,分布が拡大しつつあるなど,状況は改善してきています。

ヤンバルクイナは飛べないが,夜間は外敵を避けるため,強じんな足と羽ばたきで木に登って休むことが多い
朝,道路わきに出てきたヤンバルクイナ。個体数は回復しているが,交通事故などまだ保全上の課題は残っている