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12月 電柱・電線でバードウォッチング 急速に増えた人工の「止まり木」

 街なかから田舎まで,日本の景観の中で電柱や電線がない場所を探すほうが今や難しくなっています。現在日本には約3600万本の電柱が立ち,総延長138万km,月と地球の間(約38万km)を約2往復できるくらいの長さの電線が走っています。ちなみに電柱や電線は,厳密にいえば電気を送るためもの(電力柱・電力線)と,通信を送るためのもの(電信柱・通信線)に分かれています。一般的によく見るのは上に電気,下に通信を送る線が通っている電柱(共用柱)ですが,ここではこれらをまとめて「電柱」「電線」と呼ぶことにします。こうした景観は明治時代以降に急速にできたものですが,鳥たちはこの新しい環境にも柔軟に適応しています。今回は,ちょっと変わった視点でこの電柱・電線と鳥の話をしましょう。

一般的な街なかの電線と電線。電線はいちばん上が高圧電線,中央が低圧電線,下が通信線となる。バケツのようなものは変圧器。電柱にハシブトガラス(矢印)が止まっている
ムクドリはねぐらに入る前に電線に集まって止まることが多い
電線に止まる鳥,止まらない鳥

 バードウォッチャーでない人でも,鳥が電線に止まっているところは日常的に見ます。木に止まっている鳥は葉に隠れて見えないこともありますが,何もない電線に止まっていれば鳥の姿はバッチリ見えて「鳥が止まっている」と認識しやすいです。電線や電柱は街なかにあるので,止まる鳥もやはり街なかでよく見るスズメムクドリ,カラス,ヒヨドリ,ハト(キジバトドバト)といった鳥が多いです。一方で同じ街なかの鳥でも,例えばカルガモなどのカモ類は水かきの付いた足をもち,細い枝に止まることはほとんどないので電柱や電線に止まることはほぼありません。またふだんからあまり枝に止まらないキツツキの仲間のコゲラも電柱や電線には止まりません。ただ,水かきの付いた足をもっていてもカワウはよく電線に止まりますし,細い枝によく止まるウグイスが電線に止まることを見るのは稀です。足の構造や生態など,鳥によって電柱や電線を利用するかどうかは異なるようです。
 なお,よく「鳥は電線に止まって感電しないのか」という質問がありますが,1本の電線に止まっている限りは感電しません。電力線は基本的にゴムなど電気を通さない絶縁体で覆われていますし,仮に絶縁体のないむき出しの電線だった場合,鳥の体に多少は電気が流れるかもしれませんが,それでも電線のほうが圧倒的に電気が流れやすいため,感電するほどのことにはなりません。ただし,これはあくまで「1本の電線」に止まっている場合で,例えば両足で異なる電線をつかんだり,止まっている電線は1本でも,体のほかの部位が別の電線や電柱,地面など別のものに接触すれば,電圧の差によって電流が流れるので感電します。

電線によく止まる鳥の例:ヒヨドリ
電線によく止まる鳥の例:キジバト
カワウの脚には水かきがあるが,電線に止まるのは珍しくない
ふだんやぶの中にいることが多いウグイスが電線に止まるのは珍しい
なぜ電柱・電線に止まる?

 多くの鳥が電柱や電線に止まっていますが,その理由はさまざまです。最も大きな理由は「止まり木の代わりにちょうどいい」ということでしょう。枝の出かたが不規則な自然の樹木より,シンプルな棒や線である電柱や電線は,特に群れで動く鳥にとって集まって止まるのには格好の場所です。また,農耕地などの電線にはチョウゲンボウなどの猛禽がよく止まっていますが,これは獲物を探したり,待ち伏せをする場所として活用していると考えられます。高い木があまりない農耕地のような環境では,遠くを見通せる高さにある電柱や電線は,獲物を探す場所に適しています。
 安全のために電線や電柱に止まるという鳥もいます。見通しがよいということは,敵を発見しやすいことにつながり,また単純に高い場所にあるため,ネコなどの地上性の捕食者から逃れることができます。こういった安全性を利用して,スズメは電柱の構造物をねぐらや営巣に利用していますし,北部九州に生息するカラス科の鳥,カササギは枝を組み合わせて作った巨大な巣を電柱にかけることで有名です。ちょっとユニークな話として,奄美大島では夜間,電線にリュウキュウアカショウビンやルリカケスなどが止まっているのですが,これは島で最大の捕食者である毒蛇のハブを避けるためという説があります。ハブは木登りも得意なヘビですが,電線なら電柱を伝って上ってきても感電する可能性が高いですし,仮に電線にうまく登れたとしても,細い電線だと揺れて接近を感知しやすくなるとのことです。実証された説ではありませんが,これも電線や電柱という,新しくできた環境を鳥が巧みに利用している例といえそうです。

電線に止まり,獲物(カマキリ)をとらえて電柱で食べていたチョウゲンボウ
スズメはねぐらや営巣地として電柱や電線をよく利用する
大形の水鳥コウノトリもよく電柱に止まるが,電線に翼が引っかかってケガをするケースもある
カササギの巣。電柱に架けた場合,巣材が電線と接触して火災が起きることもある(写真◎photo AC)
夜の電線に止まって休むルリカケス。ハブ避けとして電線を利用するのだろうか
電柱・電線を利用した鳥見

 バードウォッチャー目線で電柱や電線に止まる鳥を考えると,まず鳥の発見が容易になるというメリットがあります。冬に平地に飛来するハヤブサの仲間のコチョウゲンボウは「まずは電柱・電線から探せ」といわれるほど,電柱・電線が観察の手がかりになっています。また,ムクドリは地上も電線もよく利用しますが,夏に飛来するコムクドリは,地上はあまり利用せず,木の枝や電線に止まっています。コムクドリを観察したければ,地上のムクドリは無視して,近くの電線に止まっていないか探すのが有効です。
 こうした観察のヒントになってくれる一方で,「人工物に止まっていると写真映えしない」とか,「目線より上を見上げる観察になるので全身が見づらい」といった声も聞かれますが,電柱や電線に止まる鳥はサッと見るだけでチェックできるのは大きなメリットです。鳥が新しい環境をしっかり利用しているように,バードウォッチャーも電柱や電線をうまく活用して鳥を探すようにすると,効率のよい鳥見につながるでしょう。

夏に電線でムクドリの群れを見たら,コムクドリが混じっていないかチェック
人気の冬の猛禽コチョウゲンボウはまず電線をチェックするのが観察のセオリー(写真◎photo AC)

※参考文献
三上 修(2020)岩波化学ライブラリー298 電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる? 岩波書店