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6月 幼鳥を観察してみよう 鳥の成長観察は今が旬!

 春の渡りがひと段落し,木々の葉も大きく開き,鳥たちは繁殖の真っただ中です。さえずりなどの目立った動きはなく,また梅雨や暑さといった要因もあって梅雨時~夏は鳥見はいったんお休みという人もいます。でも鳥たちの繁殖が無事に終われば,また新しい観察対象ができます。今回は鳥の子ども,つまり「幼鳥」について紹介します。

カルガモの親と幼鳥(ひな)。都会でも見られるカルガモの行列は初夏の風物詩
スズメ幼鳥。若さや未熟さを示す慣用句「くちばしが黄色い」の通りにくちばしの一部が黄色だが,実はくちばしが黄色の大人(成鳥)もいるという
そもそも幼鳥とは?

 2022年4月,日本では成人の年齢が20歳から18歳に引き下げられました。年齢がハッキリわかる状況であれば,大人と子どもの線引きは簡単です。では鳥はどうでしょう?野外で見る鳥が何歳かを知る方法は,例えばヒナの時点からの記録がない限りほぼ不可能です。では,何を基準にして鳥は大人と子どもを分けるのでしょうか?
 第1の基準は繁殖能力です。鳥の中では生まれた翌年には繁殖に参加できる鳥も少なくないので,その尺度で見れば,鳥は人でいう1歳でも大人となります。
 第2の基準は「(季節変化以外で)換羽〈かんう〉しても姿が変わらないかどうか」です。多くの鳥は成長段階で外見が変わります。生まれてすぐの段階は「幼綿羽〈ようめんう〉」というフワフワした羽に包まれ,それが成長するにつれて軸(羽軸〈うじく〉)のしっかりした「幼羽〈ようう〉」に生え換わり,飛行などが可能になります。その後,何度かの換羽を経て大人の羽「成羽〈せいう〉」となると,「夏羽・冬羽〈なつばね・ふゆばね〉」といった季節変化以外では外見が変わらなくなります。専門用語ではこれを「決定羽〈けっていう〉」といいます。
 ここまで鳥の成長段階について大人・子どもといった表現をしてきましたが,もちろん鳥にも「成鳥・幼鳥」という用語はあります。しかし幼鳥と成鳥の線引きはハッキリしておらず,しかも幼鳥と成鳥の間に「若鳥」というカテゴリーを入れる場合もあり,言葉の使い方1つ取っても文献によってさまざまです。例えばすべての羽が成羽になるまでは幼鳥とみなす考えもあれば,幼羽から1回換羽をすれば若鳥で,完全に成羽になれば成鳥という見方もあります。また第1の基準に従うなら,外見にかかわらず,繁殖に参加するなら成鳥とする場合もあるのです。
 観察している鳥の外見に幼羽が混じっているのか,あるいはすべて成羽なのかを見分けることは,ベテランウォッチャーでも簡単なことではありません。これから紹介するようなわかりやすい例を除けば,「鳥は成長によって外見がかわる」ということだけでも頭の片隅に留めておくだけで十分でしょう。

マガモ幼鳥。多くのカモは生まれてすぐに巣立つため,まだ飛べない幼綿羽の状態で親鳥とともに行動する
フクロウ幼鳥。体は幼綿羽だが翼は揃っており,近距離なら飛行も可能
ゴイサギ幼鳥。「ホシゴイ」とも呼ばれ,親とは姿がまったく異なる
ゴイサギ成鳥。ゴイサギは決定羽となるまで3~4年はかかるという
いろいろな幼鳥

 繁殖期が終わる初夏~秋にかけて,いろいろなところで幼鳥を見ることができます。巣立ち後すぐは生存率もまだ高いので,身近なフィールドでも「何か見た目や雰囲気が違う」幼鳥が多く見られることでしょう。この時期に見られる多くの幼鳥は翼や尾羽が大人ほどには伸びきっておらず,くちばしも短くて全体に丸っこい体形をしています。成鳥とまったく異なる姿をしている場合もあり,ひと目で幼鳥とわかります。また,飛行能力もさほど高くないので,あまり大きく移動せず,親鳥が食物を運んでくるのを待っています。
 季節が進んで冬が近づくと,身体的な成長によって体形はほとんど親と変わらなくなるものが多いです。羽に関しては幼羽から全身,あるいは一部の羽を換羽した「第1回冬羽」という姿になる種類が多く,成鳥と異なる羽が一部あるので「成鳥ではない」とわかる種類もいれば,ルリビタキのように成鳥雌っぽい姿をしていて,幼鳥(若鳥)と区別がつかないこともあります。

モズの幼鳥。丸っこい体形でひと目で巣立ったばかりとわかる
カワセミの幼鳥は成鳥と比べると色がくすんでいて,くちばしも短い
アカハラの第1回冬羽。よく見ると,翼の羽の一部の先端が白い
ルリビタキ雄の第1回冬羽と思われる。ただし雌とよく似ているため,断定せずに「雌タイプ」と呼ぶこともある
幼鳥観察の注意点

 幼鳥は見た目がかわいらしく,動きも危なっかしさを感じるので,つい近くで見てしまいがちですが,過度な接近は禁物です。例えば近くに巣があり,まだ巣立っていない幼鳥がいた場合,親が繁殖をやめてしまったり,カラスやネコなどの外敵の注意を引きつけてしまうおそれがあります。繁殖という鳥の生活史の中で最も重要なイベントをじゃましないよう,いつも以上に鳥との距離感を長めにとる観察を心がけましょう。また,観察時間も短くしましょう。
 また,この時期によく起きることが「誤認誘拐」です。目の前に巣立ったばかりの幼鳥がいた場合,迷子だ,保護しなければ!という思いから連れ帰ってしまうケースが後を絶ちません。たいていの場合,幼鳥の近くには親鳥がいるのですが,人がそばにいれば近づいてはきません。結果として親鳥はいるのに目の前で幼鳥を連れ去る,つまり誘拐になってしまいます。そもそも人間が幼鳥を連れ帰ったとしても,食物を与えたり,野外で生きていく術を教えて一人前の成鳥にすることは,並大抵のことではできません。また,無許可での鳥の捕獲は法律違反にもなります。もしそういった鳥を見かけたらまずは距離を取りましょう。もし路上などで車両との衝突やカラス,ネコといった外敵の危険があるのであれば,緊急避難で近くの植え込みや物陰に移動したり,木の枝などに止まらせるといった処置をするのは有効です。離れた場所から様子を見ていれば,親鳥と幼鳥が声でコミュニケーションを取り,やがて合流することでしょう。もしケガをしているなど,緊急性が高い場合は,近隣自治体の鳥獣保護担当の部署にコンタクトを取り,指示を受けてください。
 幼鳥観察はこの時期ならではのバードウォッチングです。見た目の違いを探すのもよし,親子の行動観察をするもよし,安全を確保しつつ,ふだんと違う鳥見を楽しんでください。

親鳥のそばにいるモズ幼鳥。幼鳥の近くには必ず親鳥がいる。観察には注意が必要
エナガは巣立った直後,幼鳥が集まる習性があり「エナガ団子」と呼ばれる

*幼鳥が巣から離れる前の抱卵期・育雛期は観察・撮影を控え,見つけてもすばやくその場を立ち去りましょう。危険を感じた親鳥が営巣を放棄した例が多数あります