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10月 マイフィールドを作ろう 自分だけの探鳥地で鳥を独り占め

 鳥は意識さえすれば,街なかから森林,海洋に至るまで,どこででも見られるものですが,バードウォッチングのガイド本などに「探鳥地」として紹介されている,全国的にも有名な鳥を見る場所は存在します。今回はそういった場所ではなく,自分だけの探鳥地「マイフィールド」を探すコツを紹介します。

探鳥地を紹介するガイド本は多いが,それ以外の場所でも鳥は見られる
有名な探鳥地は訪れるバードウォッチャーも多い
なぜマイフィールド?

 マイフィールドとは,鳥を見によく通うお気に入りの場所のことで,経験の長いバードウォッチャーだと,季節や見たい鳥に合わせて数か所はあります。本に出ているような有名探鳥地であれば,アクセス方法や詳しい地図,さらにはいつ,どういった鳥が見られるかという情報が集積されていますが,マイフィールドとは文字通り「自分のフィールド」であるため,その多くは無名で,鳥の情報もないに等しいです。
 ではなぜマイフィールドが大事なのか,それは鳥を独り占めできるからです。「独り占め」と聞くといいイメージはないかもしれませんが,ことバードウォッチングに関しては,よい面もあります。例えば有名探鳥地では常に多くの人が出入りしており,それによって情報を得られる反面,マナー面のトラブルや多人数で見ることで鳥にストレスを与えるケースもあります。一方,マイフィールドであれば基本的に一人なので,そういった問題を避けることができます。ただし,自分の私有地でない限り“同じ場所がほかの誰かのマイフィールド”の可能性もあります。マイフィールドでも他人を追い出すような,トラブルにつながる行為はやめましょう。
 このコロナ禍の時代,移動を制限されたバードウォッチャーの多くは有名探鳥地に行けなくなりました。それでも鳥を見たいという意欲のある人は,遠くの有名探鳥地ではなく,近くの無名なフィールドにバードウォッチングの場を求め,その結果として身近に楽しめる場所が意外にあることに気づくという例が増えています。そして情報のないマイフィールドでは,バードウォッチングの原点である「鳥を探す」こと,見つけた鳥を「しっかり観察する」ことを楽しめたといいます。

静かなマイフィールドを選べば,鳥の声を聞き逃すことも少ない
自分で探し,見つけたルリビタキを「独り占め」。見る人が少なければ鳥へのストレスも少ない
マイフィールドの探し方

 マイフィールドはどうやって見つけたら良いか,まず大事なのは「近い」ことです。どんなによいフィールドを見つけたとしても,数か月に1回しか行けないような場所では,その場所の変化などを楽しめません。少なくとも1か月に1回,できれば徒歩や自転車などで気軽に行ける場所を探してみましょう。次にGoogleマップなど衛星画像が見られるアプリなどを使って候補地を探してみましょう。具体的にはまとまった面積の緑(森や林)があったり,川や池といった水場があると,一年を通して鳥を楽しめるでしょう。ほかには以下のような場所を優先的に探すとよいです。
 (1)ヨシ原(=アシ原:葦(アシ)が「悪し」につながるので、「ヨシ」と言い換えたのが語源)
 水場の岸辺に広がっていることが多い環境です。「オオヨシキリ」や「ヨシゴイ」など,ヨシの名をもつ鳥がいるように,ヨシ原は多くの鳥が訪れる場所で,近くにあればぜひマイフィールドに加えたい環境です。ヨシは水際まで生えていることが多いため,カワセミが獲物を探すときの止まり場に使っていたり,外敵の侵入が防げるので夏~秋にツバメのねぐらになることもあります。さらに冬はヨシの中にいる虫を食べるためにオオジュリンエナガがよく訪れます。

ヨシ原は季節を問わず鳥に出会える。広いヨシ原ならチュウヒなどの猛禽も期待できる
ヨシの名をもつオオヨシキリは,夏のヨシ原の風物詩

 (2)都市公園
 街にはさまざまな公園がありますが,さすがに地面がむき出しで,遊具だけの公園には鳥はあまり来ないので,できればちょっとした林がある公園,さらには小さくても池などの水場があることが望ましいです。街なかでも公園の規模が大きければ大きいほど,見られる鳥の種類や数は増えますし,もし周囲が建物ばかりで,空から見てまるで「緑の島」のように見える場所であれば,渡りの時期に思わぬ珍客が現れることもあります。

遊具のある公園でもまとまった緑があれば鳥は来る。探鳥は静かな早朝がよい
公園では通路のすぐ脇の足元でエサを探していることもある(右:ツグミ,左:ヤマガラ
水場のある公園なら,冬はカモ類が渡来するかもしれない
公園の池では潜水をくり返すカイツブリの姿を目にすることも多い

 (3)海岸林
 海辺で鳥を見る場所といえば「干潟」が有名ですが,干潟がある地域は限られます。一方,砂浜海岸などでは砂防などの観点で海岸線に沿って植林がされており,林は小さくてもちょっとした探鳥のポイントになります。例えば海岸林は水はけがよすぎて水場が少ないため,雨の後にちょっとした水たまりが残れば,そこに鳥が集まることがあります。さらに,多くの渡り鳥は海岸林に沿って移動することが知られていますので,渡りの時期などは要注意です。同じく川沿いの並木道も鳥の移動ルートになるので,マイフィールドの有力候補です。

海岸林は海岸線に沿って,細長く伸びることが多い。マツが多いのも特徴
通常は山地の森林にいるカケスのような鳥も,渡りの時期は海岸林に姿を見せることもある
マイフィールドができたら

 バードウォッチングが楽しめそうで,通いやすい場所が見つかれば,とにかく足しげく通ってみましょう。無名な場所であれば,鳥の出現は自分の観察眼だけが頼りです。思ったほど鳥が出ないという日もあるかもしれませんが,そんなときは時間や季節を変えるのもポイントです。何度か通えば,例えば実のなる木がある場所や,川沿いのヨシ原など,目の付けどころが見えてきます。周りの環境から出る鳥を予想して,実際に探してみるという楽しみ方もできます。ただ歩くだけだった散歩が,マイフィールドをもつことで「鳥見散歩」へとステップアップし,鳥見の勘を養うことに繋がります。そこで鍛えた鳥見力は,有名な探鳥地に行ったときも役に立つことでしょう。

マイフィールドのヨシ原,冬はベニマシコアリスイがいそうだ
予想通りアリスイを見つけられたときの喜びはひとしお