公益信託 サントリー世界愛鳥基金
文字サイズ変更
検索
TOP > トピックス 身近に観察するならやっぱりカモでしょ
身近に観察するならやっぱりカモでしょ

この時期、近所の水路や公園の池などに行くと、色とりどりのカモ類が水面にたくさん浮いているのをよく見かけます。泳ぎながら近くによって来て、わたくしたちの目を楽しませてくれたりします。今回は、そんな身近に見ることのできるカモについてのお話しです。

身近に見ることのできるきれいなカモたち(オシドリ♂♀、マガモ♂)
身近に見ることのできるきれいなカモたち(オシドリ♂♀、マガモ♂)
少し早い衣替え~冬に鮮やかなオスの羽

 鳥の羽には空を飛ぶためや体温を保持するためなど、大変重要な役割があります。しかし、同じ羽をずっと使っていると徐々に傷んできて機能が損なわれてきます。このため、年に数回生え替わって羽が新しくなっているのをご存知ですか?

公園の池で足下にまで近づくカモ(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
公園の池で足下にまで近づくカモ(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
このような都会の真ん中にある公園にもオシドリやマガモがやってくる(東京都新宿区 新宿御苑 撮影/安齊友巳)
このような都会の真ん中にある公園にもオシドリやマガモがやってくる(東京都新宿区 新宿御苑 撮影/安齊友巳)

 日本に生息する多くの小鳥類は、繁殖期前の春先に換羽(羽が生え替わること)して、オスはカラフルできれいな羽に替わって繁殖期を迎えます。この繁殖期の羽を夏羽(生殖羽)といい、メスを獲得するためにオスの羽がこのようなきれいな色に生え替わるといわれています。繁殖が終わると秋頃には再び換羽をして、地味な色の冬羽(非生殖羽)に替わります。


水面を泳ぐオシドリのオス(東京都新宿区 新宿御苑 撮影/安齊友巳)

 ところが、わたくしたちが冬に見るカモ類はどうでしょう。冬だというのにオスはとても色彩豊かな羽です。春先にもっとカラフルになるのでしょうか。いえ、そんなことはありません。カモ類は、繁殖期よりもずっと前の冬の間に番(つがい)を形成します。このためオスは、メスを獲得するために秋頃から一般の鳥でいう夏羽に換羽するのです。冬だというのに夏羽というのも少し変ですが、オスのこの羽の色は繁殖期が終わる6~7月頃まで続くので、確かに夏の間も冬に見るようなきれいな色の羽のままでいます。それでは冬羽はいつかというと、種によっても若干異なりますが、おおむね秋のわずか2~3ヶ月の間だけです。この時期のオスの羽の色はメスのような地味な色になります。図鑑などでエクリプスと書かれているのは、この時期の羽の色を指しています。この後、徐々に生殖羽へ換羽が始まり、冬にはまたきれいな羽に生え替わります。
 冬の今の時期は、まさにオスがメスを獲得するために一番きれいな羽の色をしていますので、観察するには最も適した時期といえましょう。

マガモのオスの生殖羽(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
マガモのオスの生殖羽(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
マガモのオスの非生殖羽。生殖羽とは異なって地味な色になる(PIXTA)
マガモのオスの非生殖羽。生殖羽とは異なって地味な色になる(PIXTA)
餌の食べ方いろいろ

 公園の池などに浮いているカモをしばらく見ていると、スーッと水面を移動するカモのほかに、何やら首を低くして水面すれすれのところをくちばしでビチャビチャ音を立てながら泳いでいるカモがいることに気が付きます。これは水面に浮いている植物の種子や植物片などを食べているのです。このような採餌をするカモの仲間は、水面採餌ガモと呼ばれています。オナガガモやマガモ、コガモ、ハシビロガモなどはこの仲間です。時には首を水中に突っ込んで、お尻だけ水面に残るように逆立ちをして、水底の水草や藻などを食べることもありますが、水面で食べることが多い仲間です。

ハシビロガモ(オス)の板歯。嘴からブラシ状に出ているのがわかる(千葉県市川市 撮影/今井仁)
ハシビロガモ(オス)の板歯。嘴からブラシ状に出ているのがわかる(千葉県市川市 撮影/今井仁)

 カモ類の嘴の内側には板歯(ばんし)と呼ばれる細かいブラシ状の器官があり、餌である藻やプランクトンを水ごと含んで、この板歯で濾し取る方法で採餌をしているのです。その採餌風景を観察し易いのが、特に大きな嘴を持っているハシビロガモです。ハシビロガモを観察していると大きな嘴を水面すれすれにつけて、小刻みにもぐもぐしながら泳いでいる姿を見ることができます(動画参照)。

水面を泳ぐオナガガモのオス(手前)とメス(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
水面を泳ぐオナガガモのオス(手前)とメス(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
水面採餌をするハシビロガモのオス(奥)とメス(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
水面採餌をするハシビロガモのオス(奥)とメス(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)

水面採餌するハシビロガモ

 一方、これとは違った仲間に潜水採餌ガモがあります。こちらは読んで字のごとく、水に潜って採餌をするタイプのカモです。ホシハジロやキンクロハジロなどがこの仲間に入ります。水草も食べますが、軟体動物や甲殻類、昆虫類といった動物を水中で捕食します。潜るときには、水面から勢いをつけて上手に水中に入っていきます。(動画参照)
 このように、何を食べているかによって採餌行動も変わってきますので、公園の散歩などで時間に余裕があれば、このような行動の違いをじっくり観察してはいかがでしょうか。

水面に浮かぶキンクロハジロのオス。後頭部にある房状の冠羽が特徴。一見黒く見える頭も、光の当たり具合で紫色に見える(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)

潜水採餌するキンクロハジロ

カラフルと言えばオシドリ

 皆さんはオシドリという鳥をご存知ですよね。最近まで50円切手の図柄でも使われていました。オスの生殖羽は大変カラフルで、泳いでいるときには腰のあたりに大きなオレンジ色の羽が目立ちます。大きな銀杏の葉のように見えることから、銀杏羽(いちょうばね)とも呼ばれています。一方メスは地味な灰褐色で、目の後方に白いラインがあります。一緒にペアで並んで泳いでいるのをよく見かけるので、仲がよさそうに見えることからオシドリ夫婦などという言葉が生まれたのでしょう。仲むつまじい夫婦を指し示すようですが、実際のオシドリはどうなのでしょうか。

 番(つがい)が形成されるのは北海道で3~4月、西日本で2月頃が最盛期のようで、この頃からオスとメスがいつも一緒にいるところが見られます。ところが、抱卵期になると番(つがい)は解消され、オスはメスと巣から離れるようになるようです。オシドリの巣はクリなどの木の地上4~10mの高さにある樹洞に作られます。ヒナは孵化の時から綿羽(綿のようなふわふわの羽)で覆われて、目が開き、歩いたり泳いだりすることができるため、孵化後1日程度で巣立ちをします。巣立ちのときにヒナは、メス親に促されて高い樹洞から地面へ飛び降り、近くの水辺へ移動します。巣立った後はメス親と一緒に家族群をつくります。ヒナの世話はメスが行いますが、この家族群にオス親が入ることはないようです。そして、また次の冬が来るとオス、メスとも別の相手と番(つがい)になるのではないかとも言われています。なんだか、実際のところは我々が思っているような仲の良い夫婦ではないようです。

オシドリに負けず劣らず

 上述したオシドリの美麗さは非常に有名ですが、オシドリに負けないくらい美しいカモの仲間をご存知ですか?

ヨシガモ(オス)赤紫色と緑光沢のある頭部が特徴的。後方に垂れ下がる長い弓状の羽がきれい(栃木県栃木市 撮影/今井仁)
ヨシガモ(オス)赤紫色と緑光沢のある頭部が特徴的。後方に垂れ下がる長い弓状の羽がきれい(栃木県栃木市 撮影/今井仁)

 まず、一つめに取り上げたいのは、「ヨシガモ」です。ヨシガモのオスの生殖羽は、頭部以外は全体的に白色と黒色のモノトーンなのですが、非常に細かな縞模様となっており、とても上品な羽色です。独特なのは頭部の形状でナポレオンの帽子のような形をしています。さらに、腰部分には長く弓状に伸びた数枚の羽が生えており、とても優雅なカモに見えます。

 もう一つは、「ミコアイサ」です。普段目にするカモよりも嘴が細く、潜水して魚類やその他の水生生物を食べることに特化したカモの仲間です。このカモの特徴は、見て頂ければ一目瞭然で、オスの生殖羽は全体的に真っ白ですが、目の周りと後頭部だけが黒く見えるので、鳥好きの間では「パンダガモ」の愛称で呼ばれています。



ミコアイサ
オスは全体的に白いので、遠くからでも確認しやすい。メスは体が灰褐色だが茶色の頭部と白い首が目立つ
(オス:千葉県市川市 撮影/今井仁)(メス:岐阜県可児市 撮影/中島朋成)


オナガガモ
オスは頭部がチョコレート色で首は白く少し長め。名前の通り、尾羽が長い。メスは全体的に黒褐色。ほかのカモ類に比べて中央の尾羽が長い(オス・メス:栃木県真岡市 撮影/中島朋成)


オシドリ
オスは大変カラフルで、ほかのカモ類と見間違うことはない。メスは全体的に灰褐色で、白いアイリングと目から後方に伸びる白いラインが特徴的(オス・メス:青森県弘前市 撮影/今井仁)


ヒドリガモ
オスは頭が茶色だが、額に細長いクリーム色があるのが特徴。メスはほかのカモ類よりも赤みの強い褐色。オス、メスどちらも嘴が青灰色で先が黒い(オス・メス:栃木県真岡市 撮影/中島朋成)


ハシビロガモ
オスは胸が白く脇が赤茶色なので遠くからでも確認しやすい。メスは全体的に褐色だが、オスと同じように嘴が大きく幅広なので区別ができる(オス:東京都台東区 不忍池 撮影/中島朋成)(メス:東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)


公園の歩道を散歩する人慣れしたオナガガモのメス(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)
公園の歩道を散歩する人慣れしたオナガガモのメス(東京都台東区 不忍池 撮影/安齊友巳)

 冬の時期のカモはとても羽がきれいですし、公園の池などでは比較的近くにまで寄ってきますので、楽しみながらじっくり観察する良い機会です。最近では識別のためにたくさんの写真が載っている図鑑もありますから、オスの羽の色がわかるようになったら、メスの識別にチャレンジしてはどうでしょうか。また、採餌行動のほかにも何かおもしろい行動を見ることができるかもしれません。

(一般財団法人自然環境研究センター主席研究員  安齊友巳)