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12月 かわいらしい 冬の小鳥たち

秋も駆け足に過ぎ、北国からは雪の便りもちらほら。
気がつけば寒い冬がやってきました。

 12月。公園や野山の木々もすっかり枯れ落ちて静まりかえっていますが、根雪とならない地域の林内などでは、越冬のために移動してきた小鳥たちの種数や数が増えてきます。しかも冬場は、落葉らくようにより林内の見通しがよくなっており、鳥の観察にはとても適した季節でもあります。すこし寒さをこらえて外に飛び出してみませんか。

礼儀正しく「ジョウビタキ」

 冬になると、北方の国々などから日本に渡ってくる鳥を冬鳥といいます。この冬鳥のなかに、郊外の住宅地などでもよく観察することのできる「ジョウビタキ」がいます。スマートでぱっちりした目が特徴のかわいらしい鳥です。

 本種はオスとメスで羽の模様が大きく異なっており、メスは全体的に灰褐色で、お尻の一部分のみオレンジ色という地味な羽色です。一方、オスの頭頂部は鮮やかな灰色で、顔と喉、背と翼が黒色、腹部やお尻がオレンジ色。コントラストのはっきりした鮮やかな羽色をしています。オス、メスに共通しているのは翼部分に白色の斑紋がある点で、オスの方が大きく、まわりが黒色なのでよく目立ちます。この姿を家紋のついた羽織に見立てて「紋付き鳥」とも呼ばれています。

ジョウビタキのオス
ジョウビタキのオス(広島県竹原市 撮影/中島朋成)
ジョウビタキのメス
ジョウビタキのメス(群馬県館林市 撮影/中島朋成)

 このジョウビタキですが、杭などの上に止まった姿を見つけたら、ゆっくりと近づいて観察してみてください。なんと、礼儀正しくお辞儀をしてくれます。実際はお辞儀をしているわけではなく、ちょっと驚いたかのように、頭を下げて元に戻し、それと同時に尾羽をバネのように振るのですが。これはジョウビタキに見られる独特の行動で、逆光などで羽色がわからなくても、この行動を観察することで本種であることがわかります。
 ちなみに、ジョウビタキはなぜ尾羽を振るのかわかっていないのですが、同じように尾羽を振るハクセキレイでは、警戒していることを示す信号になっていると言われています。

冬の藪に潜むのは?

 越冬期、林床にある灌木や藪、比較的大きな河川の河川敷に広がるススキ草地内には、実に多くの鳥たちが生息しています。特にホオジロの仲間は、春から夏にかけて、関東などでは1、2種類くらいしか観察することができませんが、冬になると大陸や北海道など雪の多い地域から越冬のために南下してくるので、観察できる種類数も一気に増えます。その数、7種類くらいでしょうか。また、ホオジロの仲間以外にも、アトリの仲間やウグイスの仲間など、多くの鳥が冬の藪に潜んでいます。
 越冬期にはほとんどの種類が特徴的な声で鳴かないため、そこにいることに気づきにくいのです。

何がでるかな? お腹が黄色なら「アオジ」

 林の灌木内や川原の草地内から、「チッ」など鳥の声が聞こえたら、声の発せられた近くを根気強く観察してみましょう。運がよければ、声の主が姿を見せてくれます。さて、姿を見せたのはいったい誰でしょう?

 全体的に黄色っぽく、特にお腹の黄色味が強ければ、おそらく「アオジ」でしょう。「アオジ」は、ホオジロの仲間*で関東以西ではやや標高の高い山地で繁殖(北海道や東北北部では平地でも繁殖)し、冬になると低地の灌木や草地に飛来して越冬します。
 このように季節によって日本国内を移動するような鳥のことを漂鳥と言います。ホオジロの仲間は、オスとメスで羽色が異なる種がほとんどで、他の小鳥などと同様、オスの方が派手な色彩をしています。

アオジのオス
アオジのオス(群馬県館林市 撮影/中島朋成)
アオジのメス
アオジのメス(神奈川県横浜市 撮影/今井 仁)

 「アオジ」も夏羽ではオスの方がお腹の黄色が鮮やかで、頭部は緑味が強く、目先は黒い。一方、メスは全体的に淡色で頭部の緑色もほとんどなく、目先は黒くなりません。ちなみに「アオジ」の名前は、オスの頭部に見られる緑色に由来しており、古来、日本では緑色を青と表現していたことから付けられた名前とされています。なお、緑色はその昔、色の名前ではなく、「みずみずしい」という意味の形容詞だったとも聞きます。今も「緑の黒髪」と、言うことがありますね。
 越冬期である今の季節の黄色い冬羽に着目していたら、「オウ(黄)ジ」などといった名前になっていたかしれませんね。

*冬場に見られるホオジロの仲間
ホオジロ・ホオアカ・カシラダカ・ミヤマホオジロ・アオジ・クロジ・オオジュリン

お腹が白色なら頭に注目
「カシラダカ」「ミヤホオジロ」「オオジュリン」

 お腹が黄色ではなく、白色でしたら、頭に注目してください。頭頂部の羽毛が立っていたら「カシラダカ」もしくは「ミヤマホオジロ」でしょう。共に日本では繁殖せず、越冬のため日本に渡ってくる冬鳥です。
 さて、両種の識別ですが、「ミヤマホオジロ」のオスの場合はとても簡単です。なぜなら、目の周りが黒色で、喉と眉部分が鮮やかなレモン色をしているからです。「カシラダカ」は目の周りは褐色で、喉と眉部分は白色です。ただし、「カシラダカ」のオスとメスは良く似ていて識別はやや困難です。両種とも群で行動していることが多く、まじっていることもあるので、まずは群れのなかの「ミヤマホオジロ」のオスを探すことをお勧めします。

カシラダカのオス
カシラダカ、オス、メスの識別は難しい(群馬県館林市 撮影/中島朋成)
ミヤマホオジロのオス
ミヤマホオジロのオス(北海道苫小牧市 撮影/今井 仁)
冬羽のオオジュリン
ミヤマホオジロのメス(PIXTA)

 一方、頭頂部の羽毛が立っていなければ、おそらく「オオジュリン」でしょう。本種は北海道で繁殖しており、越冬のため根雪のない地域に渡ってくる漂鳥です。背面部は灰色味のある褐色、全体的に淡色で白っぽく見えます。また、他のホオジロ類と違って、冬羽でのオス、メスの違いはほとんど見られません。チュリーンという鳴き声が特徴的なので、慣れると鳴き声で他のホオジロ類と区別することができるようになります。

冬羽のオオジュリン
冬羽のオオジュリン(栃木県真岡市 撮影/中島朋成)
川原のアイドル 「ベニマシコ」

 河川敷の草地では、ホオジロの仲間以外にも「ウグイス」や「スズメ」、「シジュウカラ」など多くの鳥を観察することができます。そのなかでもバードウオッチャーに特に人気なのが「ベニマシコ」です。さきほど紹介した「オオジュリン」と同様、日本国内では北海道でのみ繁殖し、越冬のため根雪のない地域に渡ってくる漂鳥です。
 なぜ人気があるのでしょうか?理由はその色彩にあります。

ベニマシコのオス
ベニマシコのオス(秋田県湯沢市 撮影/安齊友巳)

 名前に「ベニ(紅)」と付けられているように、全身が赤く、かわいらしい鳥だからです。ただ、全体的に赤いのはオスだけで、メスは喉や前頭など一部に赤みがあるだけの地味な色彩をしています。
 見つけ方は、まずは耳を澄ましてみること。やさしい音色で「ピポー、ピポー」と聞こえたら、近くにいるサインです。あとは声を頼りに姿を探すだけ。運が良ければ、真っ赤な「ベニマシコ」に会えるかもしれませんよ。

ベニマシコのメス
ベニマシコのメス(群馬県館林市 撮影/中島朋成)

 今回、紹介した他にも、冬の林や藪、河原には、かわいらしい小鳥がたくさん見られます。宝探し気分で観察してみませんか?

(一般財団法人自然環境研究センター 上席研究員 中島朋成)